800億ドル規模の賭け:米国のAI電力推進がいかに原子力を復活させつつあるか
800億ドルに及ぶ大規模な合意は、人工知能の計り知れないエネルギー需要を満たすことを目指す。投資家にとって、本当の疑問はこれが現実のものとなるか否かではなく、どれほどの規模にまで発展するかだ。
ウォール街の火曜朝のコーヒーが冷める頃には、市場はすでに勝者を選んでいた。キャメコ社の株価は22%急騰し、一時105.50ドルを記録した。この1日の急騰で、同社の時価総額に数十億ドルが加わった。そのきっかけは、米国政府、原子力大手ウェスチングハウス・エレクトリック社、そしてウェスチングハウスの株式のほぼ半分を保有するカナダのウラン生産会社キャメコ社を結ぶ800億ドルの提携だった。
この熱狂の裏で、経験豊富な投資家たちはすでに計算を始めていた。これは単なる目新しいクリーンテックのヘッドラインではない。AIの爆発的なエネルギー需要、米国の老朽化した電力網、そして原子力エネルギーがもはや選択肢ではなく不可欠であるというワシントンにおける稀有な超党派の合意という、止めることのできない3つの力に対する計算された賭けなのだ。
喫緊の疑問は、この取引が重要かどうかではない。数字が合うか、スケジュールが守られるか、そして事態が落ち着いたときに誰が本当の利益を手にするかだ。
800億ドルが本当に買うもの
政治的な宣伝文句を取り除けば、大胆だが実用的な青写真が見えてくる。キャメコとブルックフィールド・アセット・マネジメントが共同所有するウェスチングハウスは、米国各地でAP1000型原子炉の展開を計画している。ワシントンは、原子力規制委員会(NRC)の承認を迅速化し、資金調達を支援することで、計画を円滑に進めるだろう。その見返りとして、政府はウェスチングハウスの利益が175億ドルを超えた場合の20%と、同社の評価額が2029年までに300億ドルに達した場合に20%の株式を取得するワラントを得る。政府はIPO(新規株式公開)を推進することさえ可能だ。
これは産業政策と民間資本の異例な融合である。米国は建設リスクを負うことなく利益の一部を得る。これは公共と民間の利益の境界線を曖昧にする巧妙な取引構造だ。
800億ドルは白紙小切手ではなく、資金枠である。業界の専門家は、これでAP1000型炉8〜10基分、つまり10年間にわたる3〜5つの原子炉2基構成プロジェクトを賄える可能性があると述べている。初期建設では1キロワットあたり約1万ドルだったコストが、効率化が進むにつれて6,200ドルにまで低下すると予想されている。
ウェスチングハウスにとって、これは主要な原子炉供給者およびシステムインテグレーターとしての推定160億〜240億ドルの収益であり、コスト超過の打撃を受けるゼネコンではない。この区別は重要だ。これによりウェスチングハウスは、米国最後の大型原子力事業であるジョージア州のボーグル計画を苦しめたような惨事から守られる。
誰もが認める需要
ボーグル計画以降に変わったのは技術ではなく、需要曲線だ。
AIデータセンターは電力の食いしん坊と化している。アナリストによると、AIデータセンターは現在の米国の総電力の4%を消費しているが、2035年までには約9%を消費する可能性があるという。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターのエネルギー使用量が2030年までに2倍以上になると予測している。
マイクロソフト、グーグル、アマゾンといったテック大手は、すでに信頼できるカーボンフリー電力のために15年から25年という長期の電力契約を結んでいる。中には、民間の原子力発電キャンパスを設計している企業さえある。テキサス州のあるプロジェクトでは、州の逼迫した送電網から切り離され、AIデータ運用のみに特化した4基の原子炉が構想されている。
その理由は容易に理解できる。大規模なAIモデルのトレーニングと運用には、継続的で安定した電力が必要だからだ。太陽光発電や風力発電は、莫大でいまだに高価な蓄電池がなければそれを提供できない。天然ガスは可能だが、企業の気候変動目標と変動する価格に矛盾する。
一方、原子力エネルギーは24時間稼働し、二酸化炭素を排出せず、90%以上の稼働率で運転される。AI企業にとって、その信頼性は贅沢品ではなく、彼らの競争優位性なのだ。
賢い投資:本当に儲けるのは誰か
さて、投資家の疑問だ。一体誰が本当に儲けるのか?
キャメコが最も明白な勝者に見える。 同社は2022年に、ウェスチングハウス全体の評価額がわずか79億ドルだった時に、同社の49%の株式を取得した。今日に目を向けると、対象市場は爆発的に拡大している。
第一に、ウェスチングハウスが300億ドルという目標を達成すれば、キャメコのウェスチングハウスへの出資価値は急騰する可能性がある。希薄化後でも、これは大きな上昇余地だ。
第二に、ウェスチングハウスが契約を積み重ねるにつれて、キャメコは直接その利益を共有する。慎重な見積もり、すなわち新規建設収益180億ドル、利益率12%を仮定すると、キャメコは税引き前で10億ドル以上を手にすることができる。これにはその後の儲かる燃料供給や保守作業は含まれていない。
第三に、キャメコのウラン供給チェーンにおける地位は、構造的な優位性をもたらす。米国が2024年8月以降ロシアからのウラン輸入を禁止したことで、供給は急速に逼迫している。新たな原子炉は、その市場をさらに逼迫させるだろう。キャメコはウランを採掘し、転換し、燃料に加工する。あらゆる段階で利益を捕捉するのだ。
別の見方をすれば、ウェスチングハウスの価値が10億ドル上昇するごとに、キャメコの株式は基礎価値として約2.30ドル上昇する。これは予測ではなく、この物語に組み込まれたレバレッジの一端を示している。
一方、ブルックフィールド・アセット・マネジメントは長期的な視点で動いている。 ウェスチングハウスへの51%出資は、はるかに大きなパズルの一片に過ぎない。ブルックフィールドの真の強みは、インフラファンドの運用にある。もし原子力建設が本格化すれば、ブルックフィールドは新たなファンドを立ち上げ、運用手数料を獲得し、全体的に成功報酬を受け取ることができる。
火曜日、市場はこの対照を反映した。キャメコは21%急騰した。ブルックフィールドは2%弱の上昇に留まったが、55ドルの株にとっては意味のある動きだった。
現実的な確認:前途の険しい道
しかし、興奮だけではコンクリートは流し込まれない。原子力プロジェクトの成否は、スケジュール、許認可、そして政治にかかっている。
ADVANCE法や親原子力の大統領令による新たな勢いがあっても、原子力規制委員会(NRC)の承認には数年かかる可能性がある。業界のベテランは、このプログラムによる最初の原子炉が2033年から2036年頃に稼働すると予想している。既存の原子力施設で建設され、地域の支持とインフラがすでに整っている場合は、より早くなる可能性もある。
つまり、2026年から2028年までに敷地が発表され、2031年までに資金調達と初期の基礎工事が行われ、2030年代半ばに実際に送電網に接続されるということだ。
資金調達は、エネルギー省の融資プログラム、州の電力会社、税額控除、民間電力契約が絡む綱渡りとなるだろう。各層がリスクを増大させる。
燃料供給も物事を遅らせる可能性がある。AP1000型原子炉は標準的な低濃縮ウランを使用するが、ロシアからの輸入禁止と国内生産能力の制限がボトルネックを生む可能性がある。議会は米国の燃料加工を強化するために27億ドルを確保したが、そのインフラの再構築は一朝一夕にはいかない。
そして、ボーグル計画の亡霊もいる。費用がかかり、遅延したこのプロジェクトは業界全体に傷跡を残した。今回のウェスチングハウスの役割が軽くなったことは助けになるが、チェーンのどこかで遅延やコスト超過が発生すれば、プログラム全体に影響が及ぶ可能性がある。
政府の20%の利益分配も、もう一つの不確定要素だ。投資家は上昇の可能性を好むが、ワシントンが後で条件を変更したり、過剰に介入したりするのではないかと懸念している。
状況を好転させる可能性のある要素
投資家は、単なる誇大広告と実際の進捗を区別するための節目に注目すべきだ。
肯定的な兆候としては、最初の敷地がNRCの審査に入る、連邦政府の融資保証とAI企業の電力契約が結ばれる、国内サプライチェーン能力が確認される、そして2030年代までのウラン調達契約が締結されるなどが挙げられる。
危険信号は? 許認可の遅延、訴訟、利益条件の再交渉、燃料のボトルネック、あるいはAIの電力需要が期待通りに拡大しない兆候などだ。
現時点では、需要サイドは堅調に見える。AIの電力使用量の控えめな成長率でさえ、新たな原子力発電容量を正当化する。本当の疑問は実行力だ。米国は約束したものを本当に建設できるのか?
全体像:アメリカは依然として大規模な建設が可能か?
視野を広げると、この取引は単なる企業戦略以上のものだ。それは、米国がいまだに大規模で複雑なインフラを建設する能力を持っているかどうかの試金石である。
何十年にもわたる安価なガスと再生可能エネルギーへの補助金の後、米国の原子力建設は停滞した。スリーマイル島とチェルノブイリでの事故は一世代を怯えさせ、ボーグル計画のようなプロジェクトは金融界で「原子力」を禁句に変えた。
今、AIのエネルギー需要、ロシア産ウランの禁止、そして気候変動目標が再考を余儀なくしている。原子力は一夜にしてタブーから必要不可欠なものへと変わった。
この提携の成功は、鋼鉄と蒸気以上のもの、すなわち人的資本と連携にかかっている。規制当局は手抜きをせずに迅速に動けるのか? 請負業者は失われた専門知識を再構築できるのか? メーカーは巨大な原子炉部品のサプライチェーンを再開できるのか?
もしできるのであれば、この800億ドルのイニシアチブは新たな産業の覚醒を告げるものとなるかもしれない。もしそうでなければ、それは米国の「大きなアイデアが実現しなかった」という長い歴史の新たな一章となるだろう。
キャメコの投資家にとって、火曜日の急騰は正当性の証明のように感じられた。ウェスチングハウスの2017年の破産を覚えている懐疑論者にとっては、デジャヴのように感じられた。どちらの意見も一理ある。
賢明な見方はその中間、すなわち慎重な楽観論だ。もしこれらの原子炉の半分だけでも、予定よりわずか2年遅れで稼働に達すれば、キャメコの上昇余地は数倍になる可能性がある。しかし、官僚主義が足を引っ張ったり、コストが膨れ上がったりすれば、その影響はすぐに現れるだろう。
その核心において、これはアメリカの能力への賭けである。すなわち、政府の力、企業の効率性、そして技術的ニーズを一つの方向へと一致させる能力への賭けなのだ。
時計は刻々と進んでいる。最初の電力は2033年までに供給される予定だ。これが真の原子力復活の火付け役となるのか、あるいは単なる偽りの夜明けに終わるのかは、それらの原子炉がどれだけ早く稼働し始めるかにかかっている。
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