
Builder.ai、倒産へ:テックユニコーンの劇的な転落
競争の激しいローコード開発市場で、財務上の問題が明らかになり、ロンドンのAIスタートアップ大手が経営破綻
かつて英国で最も有望なテックユニコーンの一つと称賛されたBuilder.aiは、本日(2025年5月20日)、倒産手続きに入り、会社の管理を監督する管財人を指名すると発表しました。ロンドンを拠点とするこの人工知能(AI)スタートアップは、AIを使ってカスタマイズされたアプリケーションを開発することに特化しており、マイクロソフトやカタール投資庁を含む業界の大手から多額の支援を受けていました。
2016年にサチン・デヴ・ドゥガル氏(「チーフ・ウィザード」と称していました)によって設立されたBuilder.aiは、これまで総額4億5000万米ドル(約700億円*)以上の資金を調達していました。同社は、ローコード/ノーコードのアプリケーション開発市場において、AIウィザード方式を用いて非技術系のチームでも特注アプリ開発ができるようにすると約束し、革新的な存在として位置づけられていました。 (*訳注:1ドル=155円換算)
今回の経営破綻は、数ヶ月にわたる懸念される動きに続くものです。2025年3月、ブルームバーグは、Builder.aiが以前投資家に提示した売上高を大幅に下方修正したと報じました。その後、同社は過去2年間の会計を調査するために監査法人を雇いました。創設者のドゥガル氏は2025年2月にCEOを辞任し、後に英国法人の取締役からも辞任しましたが、グループの取締役会には留まっていたと報じられています。
本日の発表で、Builder.aiは「過去の決定」から回復できなかったことを失敗の理由として挙げ、かつて英国で最も資金力のあるテクノロジースタートアップの一つと見なされていた企業の、驚くべき転落を示すこととなりました。
主なポイント
- 財務ガバナンスの問題: Builder.aiは2023年7月以降CFO(最高財務責任者)がおらず、創設者と長年の繋がりがある監査法人(利益相反の懸念を招きました)に依存しており、子会社は短期間でいくつかの小規模な監査法人を次々と変更していました。
- リーダーシップの混乱: 創設者サチン・デヴ・ドゥガル氏は、インドでの法的調査やガバナンスに関する懸念が高まる中で辞任し、重要な時期に取締役会の継続性を損ないました。
- 事業運営上の課題: 同社は、中東における未承認の再販業者チャネルへの過度な依存に苦しんでおり、早期の収益計上につながりました。同時に、資金の消費ペースが持続可能な成長を上回っていました。
- 市場でのポジショニングの苦戦: 大手ベンダーが自社のローコードプラットフォームにAIをますます組み込むにつれて、Builder.aiの独立した価値提案は、競争の激しい市場でその独自の魅力を失いました。
詳細な分析
Builder.aiの経営破綻は、単一企業の失敗にとどまらず、急速に変化するローコード/ノーコード開発市場におけるより広範な傾向と課題を浮き彫りにしています。
世界のローコード開発プラットフォーム市場は、初期の過熱した状況から主流への移行を遂げ、2024年には287.5億米ドル(約4.4兆円*)の規模となり、2025年には373.9億米ドル(約5.8兆円*)に達すると予測されています。2032年までに2644億米ドル(約40.9兆円*)まで成長し、年平均成長率(CAGR)32.2%という驚異的な伸びが予測されており、その可能性は依然として巨大です。同様に、AIコードツール分野は2024年に67億米ドル(約1兆円*)の規模で、2030年までに年平均成長率25.2%で成長し、257億米ドル(約4兆円*)に達すると見込まれています。 (*訳注:1ドル=155円換算)
Builder.aiは、開発、QA(品質保証)、DevOps、サポートをすべて一元化するエンド・ツー・エンドのAIアセンブリーライン方式で、この市場において独自の地位を確立しようと試みました。しかし、最終的には、マイクロソフトのPower Platform(月間アクティブユーザー数5600万人、前年比27%成長)、Mendix(ガートナーの「リーダー」に8年連続で選出)、OutSystems、Appianといった確立された競合他社に対して、効果的に競争することができませんでした。
これらの競合他社は、より強力なガバナンス、実績のある投資収益率(ROI)、そして低い切り替えリスクを提供しており、これはBuilder.aiが苦戦した分野でした。例えば、マイクロソフトのPower Appsは、第三者機関の調査によるとROIが206%、開発時間が50%短縮されることを誇っており、大規模なネットワーク効果とOffice 365との緊密な連携から恩恵を受けています。
Builder.aiの経営破綻は、いくつかの重要な要因に起因します。
- 失われた投資家の信頼: 財務諸表の訂正やガバナンス上の問題は、合計で4億5000万米ドル(約700億円*)を投資した支援者を警戒させました。 (*訳注:1ドル=155円換算)
- 差別化の喪失: AI機能が確立されたローコードプラットフォームの標準機能となるにつれて、Builder.ai独自のセールスポイントが薄れました。
- 広範な資金調達の引き締め: テクノロジー分野全体での資金投資の減速は、明確な収益化の見通しがない企業にとって、活動を続ける期間を短縮させました。
より広範なエコシステムにとっての影響は大きいです。ベンチャーキャピタルは、今後の投資において、監査の質、透明性の高い収益認識、経験豊富な経営陣を重視するようになるでしょう。中堅プラットフォーム間でのM&Aによる市場統合が進み、ソフトウェアベンダーとシステムインテグレーター間の連携が深まることが予想されます。イノベーションは、業界特化型のアクティベーター、AI主導のライフサイクル管理、ローコードによる組み込み分析により重点を置くようになるでしょう。
ご存知でしたか?
- 2025年までに、新しいビジネスアプリケーションの70%がローコード/ノーコードプラットフォーム上で構築されると推定されており、この分野の戦略的な重要性が示されています。
- Builder.aiの子会社は、破綻前に仮想通貨ヘッジファンドであるThree Arrows Capitalの監査も行っていたシンガポールの監査法人と協力していました。これは、潜在的なガバナンス問題の早期の警告信号でした。
- 同社は、財務ガバナンスを改善する取り組みの一環として、「連結監視のためにBig 4の内務監査法人とBig 4の法定グループ監査法人を起用した」と主張していましたが、これらの措置は最終的には不十分でした。
- 競争の激しいローコード/ノーコード市場において、実行力、信頼できる財務、明確な差別化は、長期的な成功にとって技術革新と同じくらい重要であることが証明されています。
- 再販業者による取引が期待を下回った後、Builder.aiの2023年の売上高は1億4000万米ドル(約217億円*)に下方修正され、2024年上半期の予測は25%削減されました。これは、同社のビジネスモデルに根本的な問題があることを示していました。 (*訳注:1ドル=155円換算)
Builder.aiの劇的な台頭と転落は、特に競争が激化し成熟しつつある市場で事業を展開するAIスタートアップにとって、テクノロジー革新と同じくらい財務の透明性とガバナンスが重要であることを示す、テクノロジー業界への警告となる話です。